マテーラ
マテーラ2026:旅行前に知っておくべきこと
マテーラは、岩を削って造られた街である。グラヴィーナ渓谷の縁に立ち、眼下に広がる何千もの洞窟住居を見下ろすと、まるで聖書の世界に迷い込んだかのような錯覚に陥る。メル・ギブソンが『パッション』をここで撮影し、その後ジェームズ・ボンドの映画『ノー・タイム・トゥ・ダイ』のロケ地にもなったのは偶然ではない。1950年代には洞窟スラムの貧困から'イタリアの恥'と呼ばれたこの街は、現在ではユネスコ世界遺産であり、2019年の欧州文化首都に選ばれた。
要点:マテーラを訪れるべき理由は、石灰岩の崖に刻まれた独特な洞窟地区'サッシ'にある。洞窟ホテルに宿泊し、8世紀のフレスコ画が残る岩窟教会を巡り、パロンバロ・ルンゴの地下貯水槽に降り、グラヴィーナ渓谷をハイキングしよう。マテーラだけなら2〜3日で十分だが、1週間あればバジリカータ州の周辺地域も楽しめる。
この街は、典型的なイタリアとはまったく異なるものを求める旅行者のための場所だ。ローマの壮大な広場もヴェネツィアの運河もない。代わりにあるのは、9000年の歴史を持つ唯一無二の景観である。正直に言えば、マテーラは小さくコンパクトで、1日半あれば主要なスポットは回れる。しかし、この街の雰囲気は格別で、ただ石段に腰掛け、夕暮れの黄金色の光が石造りのファサードを染めるのを眺めていたくなる。日本からの直行便はないが、バーリ空港から約1時間半でアクセスでき、南イタリア周遊の拠点として最適だ。
エリアガイド:どこに泊まるべきか
サッソ・バリサーノ(Sasso Barisano) - 洞窟都市の中心
二つある洞窟地区のうち、最も大きく観光インフラが整った地区。最高の洞窟ホテル、レストラン、ブティックが集中している。北西向きに位置し、中心部のヴィットリオ・ヴェネト広場に近い。階段、路地、テラスが織りなす迷宮のような空間で、迷子になることが最高の体験になる。洞窟を利用したブティックホテルは、岩壁をそのまま活かした内装が特徴で、日本のホテルでは味わえない唯一無二の宿泊体験ができる。
メリット:洞窟ホテルの選択肢が豊富、利便性が高い、レストランが近い、雰囲気が抜群
デメリット:最も観光地化されたエリア、価格が高め、夜はレストランの騒音がある場合も
価格帯:洞窟B&Bは80EUR(約13,000円)〜、ブティックホテルは150〜300EUR(約24,000〜48,000円)
周辺スポット:サン・ピエトロ・バリサーノ教会、MUSMA - 現代彫刻美術館、パロンバロ・ルンゴ
サッソ・カヴェオーソ(Sasso Caveoso) - 静かで本物の体験
もう一つの洞窟地区で、南東向きにグラヴィーナ渓谷を望む。カヴェオーソはバリサーノほど商業化されておらず、レストランは少ないが、'本物の'マテーラの雰囲気がより色濃く残る。路地はさらに狭く急で、階段は果てしなく続く。渓谷と対岸の岩窟教会を望む眺望はこちらが上だ。映画『パッション』の撮影はこのエリアで行われた。清潔感のある宿が多く、静かな環境を好む日本人旅行者には特にお勧めしたい。
メリット:本物の雰囲気、グラヴィーナの絶景、静か、価格が手頃
デメリット:急な坂道が多い、レストランが少ない、夜は暗い
価格帯:B&Bは60EUR(約9,600円)〜、洞窟ルームは100EUR(約16,000円)〜
周辺スポット:サン・ピエトロ・カヴェオーソ教会、サンタ・マリア・デ・イドリス教会、カーサ・グロッタ・ディ・ヴィコ・ソリターリオ
ピアーノ(Piano) - 上の街
サッシの上に位置する地区で、ヴィットリオ・ヴェネト広場周辺のエリア。商店、バール、ピッツェリアが並ぶ'普通の'イタリアの街だ。ここから両方のサッシへ下りていくことができる。バスステーションや駐車場が近く、交通の要所でもある。イタリアの地方都市の雰囲気も心地よいが、洞窟のインパクトはない。スーパーマーケットやドラッグストアもあるので、日用品の調達には便利だ。
メリット:利便性が良い、スーパーマーケットがある、平坦な地形
デメリット:洞窟の雰囲気がない、写真映えしにくい
価格帯:通常のホテルは50EUR(約8,000円)〜、B&Bは40EUR(約6,400円)〜
チヴィタ(Civita) - 二つのサッシの間の丘
旧市街で最も高い場所に位置し、マテーラ大聖堂がそびえる。この地区は二つのサッシを結び、岩の頂上に王冠のように鎮座している。狭い路地、白い外壁、パノラマテラス。レストランは少ないが、静寂と両方のサッシを同時に見渡す壮観な眺望が魅力だ。歴史的な建物を改装した宿に泊まれば、中世にタイムスリップしたような感覚を味わえる。
メリット:最高のパノラマビュー、歴史的中心地、静寂
デメリット:頂上までの登りがきつい、インフラが少ない
価格帯:歴史的パラッツォの部屋は90EUR(約14,400円)〜
駅周辺 / ヴィア・ルカーナ
ヴィア・ルカーナ沿いの近代的なエリアで、マテーラ・チェントラーレ駅から旧市街中心部まで続く。地元住民の生活エリアだ。商店、薬局、銀行など日常のインフラが揃っている。ホテルは安いが、サッシまで徒歩10〜15分。予算重視の旅行者や鉄道利用者に適している。コンビニに相当する小型スーパーもあり、日本から持参し忘れたものを調達するのに重宝する。
メリット:安い、鉄道アクセスが良い、スーパーが近い
デメリット:雰囲気がない、サッシから遠い
価格帯:ホテルは35EUR(約5,600円)〜、ホステルは20EUR(約3,200円)〜
ムルジャ・マテラーナ - 自然愛好家向け
グラヴィーナ渓谷の対岸、自然公園の一部。ベルヴェデーレ・ムルジア・ティモーネ展望台があり、マテーラの象徴的な眺望が楽しめる場所だ。ホテルはほとんどなく、ハイキングと写真撮影のためのエリアだが、周辺にはアグリツーリズモ(農家の宿)が40〜70EUR(約6,400〜11,200円)程度で点在しており、素晴らしい景色と静寂を堪能できる。
メリット:自然、静寂、街の最高の眺め
デメリット:車が必要、インフラから遠い
価格帯:アグリツーリズモは40EUR(約6,400円)〜
ベストシーズン
おすすめの時期:4月〜6月、9月〜10月。バジリカータの春は素晴らしい。気温18〜25度、緑が豊かで花が咲き、日が長い。秋は温暖で乾燥し、観光客も少なく、写真に最適な柔らかい黄金色の光が差す。9月は気温と雰囲気の理想的なバランスが取れる月だ。日本のゴールデンウィークや秋の連休と重なるため、日本人旅行者にとっても計画しやすい時期である。
7月〜8月:猛暑である。本当に暑い。35〜40度に達し、街全体が太陽に焼かれた石でできているため、サッシはまるで石窯のようになる。午前11時までと18時以降に観光し、日中は洞窟博物館やエアコンの効いた部屋で過ごすのが賢明だ。ただし夕方からは街が活気づく。洞窟でのコンサート、フェスティバル、野外映画上映などが行われる。日本の夏休みシーズンと重なるが、暑さ対策は必須だ。帽子、日焼け止め、そして十分な水分補給を忘れずに。
11月〜3月:オフシーズン。気温5〜12度、雨の可能性があるがずっと降り続くわけではない。最大の魅力は街が空いていること。サッシを独り占めできる体験は何物にも代えがたい。クリスマスシーズン(12月中旬)には、サッシの洞窟を使った'プレセーペ・ヴィヴェンテ'(生きるキリスト降誕劇)が上演される。数十の洞窟が聖書時代の場面で埋め尽くされるこの光景は、ここでしか見られない。年末年始の旅行先としても魅力的だ。
主なイベント:
- 7月2日 - フェスタ・デッラ・ブルーナ:マテーラ最大の祭り。巨大な紙の山車(カッロ・トリオンファーレ)を曳く行列が行われ、クライマックスでは群衆が山車を引きちぎる。壮観かつ混沌としたスペクタクルだ。宿泊は2〜3ヶ月前の予約が必須。
- 12月〜1月 - プレセーペ・ヴィヴェンテ:サッシの洞窟を使った生きるキリスト降誕劇。聖書時代の衣装をまとった俳優たち、洞窟で作業する職人たち、生きた動物たち。
- 4月〜5月 - 復活祭の行列:旧市街を練り歩く荘厳な宗教行列。
- 夏 - ジェッツィアモチ・ジャズ・フェスティバル、ウィメンズ・フィクション・フェスティバル、洞窟での映画上映。
安い時期:11月〜3月(クリスマス期間を除く)。洞窟ホテルが50〜60EUR(約8,000〜9,600円)〜、レストランは空いており、観光スポットも並ばずに入れる。
モデルコース:3日間から7日間
マテーラ3日間:主要スポットを網羅
1日目:サッソ・バリサーノと街への没入
9:00〜10:00 - ヴィットリオ・ヴェネト広場からスタート。広場のバールでコーヒーを一杯(カウンターでエスプレッソ1.20EUR / 約190円)。ここからサッシを見下ろす最初のビューポイントが楽しめる。イタリアのバールではカウンター(アル・バンコ)で飲むとテーブル席の半額以下になるので覚えておこう。
10:00〜11:30 - パロンバロ・ルンゴ。広場の真下にある巨大な地下貯水槽だ。ツーリストオフィスから入場(5EUR / 約800円)。岩盤を削って造られた巨大な貯水槽は、かつて街全体に水を供給していた驚異的な土木構造物。見学は30〜40分。
11:30〜13:00 - ヴィア・ダッドッツィオを通ってサッソ・バリサーノへ下る。急がないこと。角を曲がるたびに新しい景色が現れる。サン・ピエトロ・バリサーノ教会へ。マテーラ最大の岩窟教会だ。教会の下には地下通路と地下聖堂がある(3つの岩窟教会の共通券7EUR / 約1,120円に含まれる)。
13:00〜14:30 - サッシでランチ。メインの階段から離れた路地のトラットリアを探そう。オレッキエッテ(耳たぶ型のパスタ)をブロッコリーラーベやラグーソースで試してみたい。
15:00〜17:00 - カーサ・ノーハ(FAI管理)。かつての貴族の邸宅でマテーラの歴史をマルチメディアで紹介する施設(約45分)。続いてMUSMA - 現代彫刻美術館。パラッツォ・ポマリチの洞窟に設置された現代彫刻美術館で、古代の洞窟と現代アートの意外なコントラストが面白い。
18:00〜20:00 - 夕暮れ時。ベストスポットはサン・ピエトロ・カヴェオーソ教会付近の展望台か、ヴィア・ブルーノ・ブオッツィのテラス。サッシに灯りがともる瞬間は、イタリアで最も美しい景色の一つだ。
20:30 - チヴィタまたは上の街でディナー。ペペローネ・クルスコ(乾燥パプリカの素揚げ)を試そう。バジリカータ料理の象徴的な食材だ。
2日目:サッソ・カヴェオーソとグラヴィーナ渓谷
9:00〜10:30 - サンタ・マリア・デ・イドリス教会。モンテ・エローネの岩山の頂上に直接刻まれた教会だ。内部には12〜17世紀のフレスコ画がある。入口前の広場からの眺めは街屈指の絶景である。
10:30〜11:30 - サンタ・ルチア・アッレ・マルヴェ教会。マテーラ初の女子ベネディクト派修道院(8〜9世紀)。岩のくぼみに描かれたフレスコ画は、街で最も古いものだ。
11:30〜12:30 - カーサ・グロッタ・ディ・ヴィコ・ソリターリオ。再現された洞窟住居で、1950年代まで家畜と一緒に一つの洞窟で暮らしていた家族の生活を見ることができる。衝撃的かつ教育的な体験だ。
12:30〜14:00 - カヴェオーソ地区でランチ。観光客の少ないレストランで渓谷を眺めながら。
14:30〜17:30 - グラヴィーナ渓谷トレッキング。サン・ピエトロ・カヴェオーソからトレイルを下り、古代の橋ポンティチェッロ(ローマ時代の道)を渡る。渓谷の対岸に渡り、ベルヴェデーレ・ムルジア・ティモーネまで歩く。街全体を見渡す有名な展望台だ。途中には岩壁に刻まれた洞窟教会(8〜13世紀のフレスコ画、入場無料)がある。全行程5〜6km、中級レベル。水とウォーキングシューズは必須。足元が不安定な箇所もあるので、トレッキングポールがあると安心だ。
18:00 - 街に戻る。ヴィットリオ・ヴェネト広場かサッシのテラスでアペリティーヴォ(食前酒)。イタリアでは夕食前にスプリッツやアペロール・スプリッツを楽しむ習慣がある。ドリンクを注文するとスナックが付いてくる店も多い。
20:30 - ディナー。アニェッロ・アッラ・マテラーナ(マテーラ風子羊肉)と地元ワインのアリャニコ・デル・ヴルトゥレを注文しよう。
3日目:原罪の地下聖堂と周辺
9:00〜11:00 - 原罪の地下聖堂。市内から14km離れた場所にある。'洞窟芸術のシスティーナ礼拝堂'と称される、8〜9世紀の驚くべき保存状態のフレスコ画。必ず事前にオンライン予約を。決まった時間の小グループツアーのみ。タクシーまたは送迎(片道15〜20EUR / 約2,400〜3,200円)。
11:30〜13:00 - 街に戻り、見逃したスポットを探索。職人の工房を覗いてみよう。クークー(cucu)と呼ばれる鶏の形をした陶器の笛はマテーラのシンボルだ。地元の食材を扱う店やセレクトショップも。日本へのお土産にはペペローネ・クルスコの真空パックやオリーブオイルが最適。
13:00〜14:30 - 最後のランチ。旧市街のパン屋でフォカッチャ・マテラーナ(厚手でふわふわ、トマトとオリーブ入り)を味わおう。
15:00〜17:00 - チヴィタのマテーラ大聖堂。岩山の頂上に立つ13世紀のロマネスク様式の大聖堂だ。内部には最後の審判のフレスコ画とビザンティン様式のマドンナ・デッラ・ブルーナのイコンがある。大聖堂の広場からは両方のサッシを見渡すパノラマが広がる。
17:00〜18:30 - 写真撮影の自由時間。マテーラの夕方の光は撮影に最高だ。ヴィア・マドンナ・デッレ・ヴィルトゥとモンテ・エローネ周辺の階段が特に美しい。
マテーラ5日間:ゆったりと
1〜3日目は上記の通り。さらに:
4日目:食と工芸を楽しむ
9:00〜12:00 - オレッキエッテ作りの料理教室。数か所の料理学校が一人40〜60EUR(約6,400〜9,600円)で教室を開催している。バジリカータのおばあちゃんたちが代々受け継いできた手法で手打ちパスタを作り、自分で作ったものを昼食として楽しむ。日本語対応は基本的にないが、英語またはイタリア語のクラスでもジェスチャーと実演で十分に楽しめる。
14:00〜16:00 - 近郊のオリーブ農園やワイナリーを訪問。バジリカータ州はアリャニコ・デル・ヴルトゥレという優れた赤ワインとオリーブオイルの産地だ。テイスティングは15〜25EUR(約2,400〜4,000円)。ワイナリーによっては英語ガイドが付く。
17:00〜19:00 - ラネーラ地区を探索。サッソ・バリサーノのあまり知られていないエリアだ。観光客はほとんどおらず、放棄された洞窟、石垣から突き出すサボテン、階段で眠る猫たち。マテーラの素顔を感じられる場所である。
5日目:日帰り旅行
選択肢A:アルタムーラ(車で30分) - パンの街。有名なパーネ・ディ・アルタムーラ(DOP認定)は世界最高のパンの一つとされる。薪窯のある歴史的なパン屋を訪ね、フォカッチャ・リピエーナ(具入りフォカッチャ)を試してみよう。また、ポントレッリ採石場では本物の恐竜の足跡も見ることができる。
選択肢B:カステルメッツァーノと天使の飛行(車で1時間) - ルカニア・ドロミテ山岳地帯の村。家々が岩壁にしがみつくように建っている。'天使の飛行'(ヴォロ・デッランジェロ)は、カステルメッツァーノとピエトラペルトーザの二つの村の間を結ぶ、標高1000mのジップライン。スリルと絶景を同時に味わえる。チケット40EUR(約6,400円)。
選択肢C:クラーコ(車で40分) - 丘の上のゴーストタウン。1963年に地滑りのため放棄された。ガイド付きツアー(10EUR / 約1,600円)で見学できる。不気味なほど美しい廃墟だ。ジェームズ・ボンド『慰めの報酬』やカルロ・レーヴィ原作の映画の撮影地としても知られる。
マテーラ7日間:周辺地域も含めて
1〜5日目は上記の通り。さらに:
6日目:バジリカータの海岸
マラテーア(車で2時間) - 'ティレニア海の真珠'と呼ばれる。ターコイズブルーの海に面した岩場の入り江、山頂にはリオデジャネイロのような巨大キリスト像がそびえる。あるいはメタポント(車で40分) - ギリシャ遺跡とビーチ。ティレニア海側の方が景色は美しく、イオニア海側の方が近くて考古学的見どころがある。海水浴を楽しむなら水着とビーチサンダルを忘れずに。イタリアのビーチは有料区画(リド)と無料区画(スピアッジャ・リベラ)があるので注意。リドはデッキチェアとパラソル込みで15〜25EUR(約2,400〜4,000円)程度。
7日目:ポテンツァとルカニアの城
メルフィ(車で1.5時間) - フリードリヒ2世のノルマン城、またはヴェノーザ - 詩人ホラティウスの生誕地でローマ遺跡がある。アグリツーリズモでルカニア料理のランチを楽しもう。夕方はマテーラに戻り、サッシを見渡すテラスでお別れのディナーを。
グルメガイド:レストランとカフェ
ストリートフードとパン屋
マテーラは一般的な意味でのストリートフードの街ではない。しかし、パンとフォカッチャに対する崇拝がある。パーネ・ディ・マテーラ(IGP認定)は、硬質小麦のセモリナ粉から作られる巨大なパンで、カリカリの外皮と柔らかい中身が特徴だ。歴史的なパン屋(パニフィーチョ)で、トマトとオリーブオイルをかけた一切れを買おう。2〜3EUR(約320〜480円)で朝食の代わりになる。日本のパンとはまったく異なる力強い味わいで、小麦の風味が口いっぱいに広がる。
フォカッチャ・マテラーナはナポリのものより厚く、ローマのものより柔らかい。チェリートマト、オリーブ、玉ねぎが載っている。サッシのパン屋では一切れ2.50EUR(約400円)〜。'Forno a legna'(薪窯)の看板を探そう。
フリッズリ(またはフェレッティ) - 細い棒に巻きつけて手作りする地元のパスタ。フェスティバルやマルシェでは紙コップに入ったラグーソース添えが売られることもある。
地元のトラットリア
マテーラで最も美味しい食事は、手書きのメニューか、メニューすらない(店主がその日の料理を教えてくれる)小さなトラットリアにある。良い店の見分け方:チェック柄のテーブルクロス、昼食時に地元客がいる、ワインがガラスの水差しで出てくる。平均的な食事代は、プリモ(パスタ)+セコンド(メイン)+ワインで15〜25EUR(約2,400〜4,000円)。日本の感覚からすると、この価格でこの質の食事ができるのは驚きだろう。
ヴィア・フィオレンティーニ、サッソ・バリサーノの路地(メインの階段から離れた場所)、ピアッツァ・セディーレ周辺でトラットリアを探そう。ランチタイムは12:30〜14:30、ディナーは20:00〜。日本のレストランに比べると食事の時間が遅いが、これがイタリアのリズムだ。
中級レストラン
サッシには渓谷を望む美しいテラスを持つレストランが多数オープンしている。価格帯はワイン付きディナーで30〜50EUR(約4,800〜8,000円)。バジリカータの伝統料理を現代的にアレンジした料理が楽しめる。ハイシーズンのディナー、特にテラス席は事前予約を推奨する。チヴィタとサッソ・バリサーノの上部に集中している。'cucina lucana'(ルカニア料理)と表示されている店は、シェフが地元の食材を使って調理している証拠だ。JCBカードの利用は一部の店舗で可能だが、Visa/Mastercardの方が確実に受け入れられる。小さなトラットリアでは現金のみの場合もあるので、ある程度の現金を携帯しておくことを勧める。
高級レストラン
特別なディナーに。マテーラにはミシュラン推薦のレストランが数軒ある。一人あたりワイン込みで60〜100EUR(約9,600〜16,000円)。5〜7品のデグスタツィオーネ(テイスティングメニュー)で、地元食材を使った創作料理が味わえる。シーズン中は少なくとも1週間前の予約を。チヴィタ地区とヴィア・リドラ沿いにある。日本のファインダイニングと比べると、かしこまりすぎない雰囲気で、リラックスして楽しめるのがイタリアらしい。
カフェと朝食
イタリアの朝食はコルネット(クロワッサン)+カプチーノで2〜3EUR(約320〜480円)。マテーラではこれにパスティチョット(pasticiotto)が加わる。南イタリア特有のカスタードクリーム入りの甘いパンだ。朝食におすすめのカフェはヴィットリオ・ヴェネト広場とヴィア・デル・コルソ沿いにある。カウンター(アル・バンコ)で立ち飲みすると、テーブル席(アル・ターヴォロ)の2〜3分の1の価格になるのはイタリア全土共通のルールだ。
コーヒー休憩にはサッシのテラス付きバールを探そう。エスプレッソ:1〜1.20EUR(約160〜190円)。カプチーノ:1.50〜2EUR(約240〜320円)。イタリア人は午前11時以降カプチーノを飲まないが、観光客であれば気にする必要はない。日本のコーヒー文化に慣れた方には、イタリアンエスプレッソの濃厚さとコクの深さに驚くだろう。
必食グルメ
オレッキエッテ・コン・レ・チーメ・ディ・ラーパ - 耳たぶ型のパスタに菜の花(ブロッコリーラーベ)、ニンニク、アンチョビを合わせたバジリカータとプーリアの定番。毎朝手作りしているトラットリアのものが最高だ。8〜12EUR(約1,280〜1,920円)。プリモとして注文を。
ペペローネ・クルスコ - バジリカータの名刺代わりとも言える食材。セニーゼ産の乾燥甘唐辛子を一瞬で素揚げしたもの。パリパリで甘みがあり、他のどこでも味わえない独特の食感。付け合わせとして、パスタに加えて、ブルスケッタに砕いて。お土産にも最適。サッシの店で1袋3〜5EUR(約480〜800円)。
クラピアータ・マテラーナ - 古代の農民料理。レンズ豆、ひよこ豆、白いんげん豆などの豆類と、小麦、大麦などの穀物を混ぜた濃厚なスープ。本来は8月1日の収穫祭に作られるが、一部のレストランでは通年提供している。8〜10EUR(約1,280〜1,600円)。日本の豆料理とはまったく異なる、素朴で力強い味わいだ。
パーネ・ディ・マテーラ(IGP) - 地理的表示保護を受けたマテーラのパン。硬質小麦のセモリナ粉を使い、薪窯で焼き上げる。最大10kgにもなる巨大な塊。外はカリカリ、中は黄色くもっちり。1週間保存が可能。オリーブオイルとトマトを添えた一切れで立派な昼食になる。3EUR(約480円)。
ストラッツァーテ - アーモンド入りチョコレートクッキーで、マテーラの名物菓子。表面が'引き裂かれた'(strazzata)ような見た目が特徴。パン屋で1個1〜2EUR(約160〜320円)。エスプレッソとの組み合わせが抜群だ。
ルカニカ - フェンネルとペペロンチーノ入りの細いポークソーセージ。この名前がイタリア全土で使われる'ルガネガ'の語源となった。熟成タイプと生タイプがある。どのレストランでもアンティパスティの盛り合わせ(タリエーレ)に含まれる。サラミやチーズの盛り合わせは10〜15EUR(約1,600〜2,400円)。
アニェッロ・アッラ・マテラーナ - マテーラ風子羊肉。ジャガイモ、トマト、玉ねぎと一緒に陶器の鍋(ティエッラ)で長時間焼き上げる。典型的なセコンド(メイン料理)。12〜18EUR(約1,920〜2,880円)。
カチョカヴァッロ・ポドリコ - バジリカータの野生の牧草地で放牧されるポドリカ種の牛から作られる熟成チーズ。複雑でピリッとした風味。グリル(アッラ・ピアストラ)で焼いたものやアンティパスティとして。市場での価格は1kgあたり10〜15EUR(約1,600〜2,400円)。
アリャニコ・デル・ヴルトゥレ DOC - 土着品種アリャニコから作られる赤ワイン。力強く、タンニンが豊かで、チェリーとスパイスの香りが特徴。名門生産者:バジリスコ、エレナ・フッチ、グリファルコ。レストランで1本18〜35EUR(約2,880〜5,600円)。エノテカ(ワインショップ)では10EUR(約1,600円)〜。
注文しないほうがよいもの:マテーラのピザ(ここはナポリではない。ピザは平凡だ)。魚介類(海から遠い内陸の街だ)。15EURの'ツーリストメニュー'は、たいてい冷凍食品の温め直し。
ベジタリアンの方へ:バジリカータは菜食に優しい。野菜、豆類、パスタを使った料理が豊富だ。パルミジャーナ・ディ・メランツァーネ(茄子のグラタン)、チャンボッタ(野菜の煮込み)、ペペローネ・クルスコ入りのオレッキエッテなど。
地元民だけが知るコツ
- 靴がすべてを決める。マテーラは階段の街だ。何百段もの階段、磨かれた石、傾斜した路面。ヒールのある靴は救急病院行きの切符だ。スニーカーかトレッキングシューズのみ。雨の後は石が氷のように滑る。日本から履き慣れた歩きやすい靴を持参すること。
- 早朝か夜遅くに来ること。サッシは10時から17時まで観光客であふれる(特にバーリからのクルーズ船団体客)。朝7時と20時以降は街を独占できる。サッソ・カヴェオーソからの日の出の写真を人のいない状態で撮影できるのは早起きの特権だ。
- 共通券をすぐに買わないこと。いくつかの種類がある:岩窟教会3か所(7EUR / 約1,120円)、拡張版(10EUR / 約1,600円)、フルパス(15EUR / 約2,400円)。1〜2日の滞在なら教会3か所の券と、パロンバロ・ルンゴと原罪の地下聖堂は別途購入で十分だ。
- 原罪の地下聖堂は早めに予約を。少人数グループ(最大25名)で、枠がすぐ埋まる。ハイシーズンは2〜3週間前に予約が必要。予約なしではほぼ入れない。公式サイトからオンラインで予約できる。
- 噴水の水は飲める。マイボトルを持参しよう。フォンタネッレ(公共の水飲み場)が街中にある。1日あたり2〜3EUR(約320〜480円)のペットボトル代を節約でき、環境にもよい。
- 駐車場は頭痛の種。サッシに駐車場はない。無料駐車場は郊外(ヴィア・ルカーナ、スピーネ・ビアンケ地区)にあり、徒歩15〜20分。ヴィア・アンヌンツィアテッラ付近の有料駐車場(1時間1〜1.50EUR / 約160〜240円)が近い。レンタカーで来た場合は駐車して歩くのがベスト。
- 地図なしで歩こう。これは本気の助言だ。マテーラは永久に迷子になるほど大きくはないが、予想外の絶景を角ごとに見つけられるほど複雑だ。最高の体験は道を間違えた時に訪れる。ただし、Google Mapsをオフラインで使える状態にしておくと、いつでも安心して冒険できる。
- 夜のマテーラは別世界。灯りがともると、サッシはクリスマスカードのような幻想的な世界に変わる。ベストビューポイントはヴィア・ブルーノ・ブオッツィ(サッソ・バリサーノ)またはサン・ピエトロ・カヴェオーソ教会付近。写真家の方へ:三脚は必携だ。
- バジリカータであってプーリアではない。多くの観光客がマテーラを'プーリア周遊'に組み込むが、マテーラはバジリカータ州の州都だ。異なる州で、異なる料理と異なる文化がある。地元の人に間違えて言うと気を悪くされるかもしれない(冗談のようだが、半分は本気で)。
- バーリからの日帰りにしないこと。できなくはないが、街の本質を感じ取れない。マテーラは夕暮れ時、日没後、夜に真価を発揮する。朝来て17時に帰るのは、最も美しい時間帯を見逃すことを意味する。最低でも1泊は必要だ。
- おすすめのお土産。クークー(cucu)- マテーラのシンボルである鶏の形をした陶器の笛。手作りで5EUR(約800円)〜。ペペローネ・クルスコの真空パック(3〜5EUR / 約480〜800円)。ブリキ缶入りの地元のオリーブオイル。いずれもスーツケースに入れやすく、日本へ持ち帰りやすいお土産だ。
交通と通信
バーリからのアクセス
バーリはマテーラへの玄関口だ。日本からはローマやミラノ経由でバーリ・パレーゼ空港に到着するのが一般的だ。成田・羽田からローマまで約13時間、ローマからバーリまで国内線で約1時間。以下がバーリ空港からマテーラへの移動手段だ。
- バス(Flixbus / Pugliairbus):バーリ空港からマテーラへの直行便。約1.5時間、5〜10EUR(約800〜1,600円)。1日4〜6本運行。便利で安い。事前にアプリで予約しておくと確実だ。
- FAL鉄道(Ferrovie Appulo Lucane):バーリ・チェントラーレ駅からマテーラ・チェントラーレ駅まで。1.5〜2時間、5EUR(約800円)。地方鉄道で遅いが、車窓の風景が楽しめる。バーリFAL駅はTrenitalia(イタリア国鉄)の駅とは異なるので注意。
- タクシー / 送迎:100〜130EUR(約16,000〜20,800円)。3〜4人で割れば合理的だ。BlaBlaCar(カーシェアリングアプリ)なら5EUR(約800円)〜。
- レンタカー:高速道路で約1時間。周辺地域の探索には便利だが、マテーラ市内では駐車場の問題があるため足かせになる。日本の国際運転免許証があれば運転可能。右側通行に慣れていない場合は、最初は郊外で練習してから市内に向かうのが無難だ。
市内の移動
マテーラは徒歩の街だ。歴史地区全体は30〜40分で一回りできる(ただし途中で止まらずに歩けた場合の話で、実際には不可能だ)。公共交通機関は郊外への移動にのみ必要となる。
- 市内バス(MICCOLIS):駅、駐車場、中心部を結ぶ。1回1EUR(約160円)。ダイヤは不安定なので、あてにしないこと。
- タクシー:マテーラにはタクシーが少ない。電話で呼ぶ必要があり、Uberは使えない。市内の移動は8〜12EUR(約1,280〜1,920円)。原罪の地下聖堂まで15〜20EUR(約2,400〜3,200円)。ホテルのフロントに電話を頼むのが最も確実だ。
- 徒歩:唯一の合理的な移動手段。ただし1日5〜10kmの歩行、しかもその大半が階段であることを覚悟しよう。万歩計が普段の2〜3倍の数字を叩き出す。
- トゥクトゥク:観光用トゥクトゥクが上の街を巡回している。15〜20EUR(約2,400〜3,200円)のツアー。楽しいが必須ではない。
インターネットと通信
SIMカード / eSIM:イタリアはEU圏内。日本からの旅行者は、出発前にeSIM(Airalo、Holafly等)を購入するのが最も手軽だ。1GBあたり5EUR(約800円)〜。現地でSIMカードを購入する場合は、ヴィア・デル・コルソ沿いにTIM、Vodafone、WindTreの販売店がある。観光客向けSIMは10〜15EUR(約1,600〜2,400円)で10〜50GBのデータ通信が可能。パスポートの提示が必要だ。eSIMなら日本で事前に設定でき、到着と同時に使えるので、空港での手続きの手間が省ける。
Wi-Fi:ホテルやカフェではほぼ全てWi-Fiが利用可能。ただし洞窟ホテルでは壁が厚いため電波が弱いことがある。ヴィットリオ・ヴェネト広場には公共Wi-Fi(速度は遅い)がある。動画のアップロードやビデオ通話は、ホテルのWi-Fiよりもモバイルデータ通信の方が安定する場合が多い。
便利なアプリ:
- Trenitalia + FAL Basilicata - 鉄道とバスの時刻表検索
- Google Maps - ナビゲーション。ただしサッシでは階段や高低差を考慮しないため、時々不正確になる
- Maps.me - オフライン地図。サッシではGoogle Mapsより正確に機能することが多い。事前にダウンロードしておこう
- TheFork(LaFourchette) - レストラン予約。最大50%割引になることも
- Flixbus - バーリ、ナポリ、ローマからのバス予約
- Google翻訳 - イタリア語が話せない場合の強い味方。カメラ翻訳機能でメニューも読める
支払いについて:クレジットカードはVisa/Mastercardが最も広く受け入れられている。JCBは大型ホテルや一部の店舗では使えるが、小さなトラットリアやカフェでは受け付けない場合が多い。現金も50〜100EUR(約8,000〜16,000円)程度は常に携帯しておくと安心だ。ATMは上の街やヴィア・ルカーナ沿いに点在しており、海外キャッシングも可能。チップの習慣はイタリアでは義務ではないが、良いサービスを受けた場合は端数を切り上げるか1〜2EUR程度を置くのが一般的だ。
まとめ
マテーラは観光のチェックリストを消化するための街ではなく、体験するための街だ。小さいが、印象の密度は驚くほど高い。9000年の歴史、唯一無二の建築、力強い郷土料理、そして鳥肌が立つような雰囲気。ここでは観光スポットの一覧表は必要ない。ただ歩き、見て、感じるだけでいい。
こんな旅行者に最適:写真家、カップル(ロマンチックな洞窟ホテル)、歴史と建築の愛好家、食通、定番ルートから外れた'もう一つのイタリア'を求める人。
向いていない場合:ビーチリゾート(海まで1〜2時間)、小さな子供連れの家族(階段だらけでベビーカーは使い物にならない)、ショッピングやナイトライフ好き(街は23時には眠りにつく)。
滞在日数:最低2泊、理想は3〜4日(周辺地域を含む)、最大1週間(バジリカータ州の旅を含む)。
情報は2026年時点のものです。